滞在先のフランスから帰国後、日本に仕事もないまま正式に離婚が成立しシングルマザーとなって、心から有り難い、と思ったことがいくつかあります。
そのひとつは、日本の福祉制度でした。

まだ1歳になったばかりの子どもを抱えながら働く先を探すにも、貯金もない私にとって、公的資金は生活のためには欠かせないものでした。私が公務員になるための学びを得ることができたのは、この制度があったおかげだと思います。

日本にキャリアのない私が将来の生活の安定のために選んだ職業は「公務員」でしたが、そのために1年間、私は公務員に必要な学びのために「すぐに働かない」道を選びました。

ところが、その道を厳しく非難されたことがあります。

その学びが必ずしも就職を約束するものではないことは当然知っていましたし、生活や子どものことをどんな反対もせずに支えてくれている両親を見ながら、私自身も随分悩み迷ったものです。

けれども、もしあのとき生活のためにアルバイトやパートに出て時間を費やしていたならば、制限時間ギリギリの一年間では、私は「公務員」という壁を超えることができなかったと思うのです。

だから、この本に魅かれるのかもしれません。
「隷属なき道」ルトガー・ブレグマン著

これは、公人や福祉に関わる全ての人にいちどは読んでもらいたい1冊です。
シングルマザーも含め子育て世帯の貧困をなくそうといくならば、なによりもまず「働く」に追い立てることだけが道ではないと、知ってほしいのです。

 

この本のキーワードのひとつが「ベーシックインカム」。
誰にも平等に同じだけの富を分配する、という考え方です。しかも福祉制度ではなく、フリーマネーを与える、という考え方です。貧困を撲滅するための方策として提案されているのです。

著者は、誰もの前提に「お金をあげると、もらったものは怠けるんじゃないか?」という思いがあることを指摘したうえで、実験データーや歴史を示し、「そうではない」ということを説明しています。

また本書には、ところどころで経済学者の言葉が引用されています。
たとえば、「貧困とは、基本的に現金がないことだ。愚かだから貧困になったわけではない。靴をはいて立ち上がろうとしても、そもそも靴がなければ話にならない」など。

そのうえで著者はいいます。
「お金に関して重要なのは、自称専門家が貧しい人々にとって必要と考え用意したものではなく、当事者が自分にとって必要なものを買うためにそれを使えるということだ」と。

 

さて、この本のもうひとつのキーワードが「働き方」。
「機械への『隷属なき道』」という言葉がカバーに記されていますが、本書を読んでいるとこの言葉に奥の深さを感じます。必ずしも「機械」への隷属を意味している言葉ではないように思います。

著者はいいます。
「人間も社会も、年を取るにつれて現状に慣れ、自由が監獄となり、真実が嘘になることもある」と。そして「わたしたち世代の真の危機は、『良い暮らし』を思い描けなくなっていること」だと。

 

離婚したばかりで職がみつからない
小さな子どもを放っておけない
まずは子どもに、自分はあとで

生活への苦しさを抱えているときは、目先の利が欲しいものです。
けれども、もしお金のことに目を伏せておけるなら、長期的な視点での「富」を考え「働く」ことができることも知っている人たちです。

SNSや自分のメディアで、「誰もが幸せであるために」「誰もがあなたらしくあるために」と発信する人が多いからこそ、このことを、たくさんの人にも知ってもらいたいのです。

魚を与えたり魚の釣り方を教えるではなく、その人がほんとうに必要としているものを自分で得る自由を手にするために。

 

富と働き方の再分配について、あなたなりの考え方を持ってみませんか?

「世界を変えようとするきわめてテンポの遅い実験から始まるのだ」からこそ、今、ひとりひとりが貧困と富と働き方について考えてみることに、大きな意味があると思えてなりません。

 

※読書後に、ぜひあなたの感想もお聞かせください。読活交換いたしましょう!!

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