「自分らしさとは?」に向き合う場面が多くなり、生活様式も多様化しています。

そのような流れのなか、個人に向けて「ライフスタイル」を考えてみませんか?と提案する人を、よくみかけるようになりました。

もちろん、昔から「ライフスタイル」の提案はありました。
それはどちらかといえば、大衆向けに「もの」を主軸にして消費意欲を訴えかけるようなものが多かったように思います。

けれども、お客様の人生の幸せを願い「ライフスタイル」を考えてみませんか?と個人に向けて提案している人にとって、「それはちょっと違うんだけどな~」と思うことが多々あるのでは、と思います。

 

メディアがこぞって

憧れの生活を!
こんな自由な暮らしを!

などと謳って刷り込む影響というものは意外と大きいですから、一朝一夕には拭えないのも仕方がありません。

「ライフスタイル」に興味を持たれているあなたのお客様のなかでも、「もの」に意識を向ける方は多いのではないでしょうか。

「ライフスタイル」を謳う雑誌をみれば、目に飛び込む空間演出の写真に気をとられているでしょう。

チリひとつなかろうか?と思わせられるほど綺麗に整然と並ぶリビングの家具たち。
白と黒を基調に統一されたその空間には、余計なものが一切見当たらない。
ましてや、、、おばあちゃんが旅行のおみやげで買ってきた「ザ昭和!」な置物に、使いやすいように点在するボールペンにメモ紙などが、あるはずもなく。
いつか読むだろうと積まれた広告や雑誌は、いよいよ山になりつつある。
北欧家具に憧れるものの、、、この家のどこにそんなものが似合うだろうか、、、

写真からの思い込みが勝ってしまうと、せっかく「ライフスタイル」に興味を持った方でも、「やっぱり私にはライフスタイルなど無縁だわ」と、逆にそっぽを向かれかねません。

 

けれども「ライフスタイル」とは、そんな浅はかなものではないと思うのです。

「ライフスタイル」とは「その人の個性をあらわすような生き方」です。
つまり、人の生き方そのものが「ライフスタイル」だと思うのです。

雑誌のようなリビングがなくても
おばあちゃんのお土産がならんでいても
北欧家具がなくても
大丈夫。

そんな表面ばかりの「ライフスタイル」よりも、その人の「生き方」が充実している方がはるかに大切であり、そこを起点にして空間演出がなされるべきなのです。

 

もし、空間演出ありきではなく「生き方」そのものの充実から「ライフスタイル」を提案したいとおもうならば、写真溢れる雑誌をからほんの少し離れてみませんか。その代わりに、こんな本はいかがでしょう。

「私の生活技術」アンドレ・モーロア著

モノや空間演出ありきの「ライフスタイル」に違和感があるならば、おススメの本です。

 

この本の原著が出版されたのが、1939年。
第二次世界大戦の直前、ドイツがポーランドを侵攻する1年前のことです。
大きな不安の波が広がっているヨーロッパにおいて、フランス人の著者が、「正しく美しく」社会生活や国民生活を成すための智慧をまとめた、とされる1冊です。

タイトルである「生活技術」をそのまま日本語の感覚で読むと、どこか無機質でテクニック論の味気ない印象を持つ日本人は少なくないかもしれません。
けれどもその印象は、言語的な違いによるとことが大きいと思います。

日本語の「技術」という部分は、原題では「art」という言葉で表現されています。
フランス語の「art」には芸術的側面と技術的側面があり、その二つは「自然に人間が手を加えること」という点において共通性がある、といわれることがあります。
「art」という言葉に含蓄される意味が、日本人のそれよりも多いのです。

ですからここでの「技術」については、無機質な感覚ではなく「心が動かされる目に見えない価値をその言葉に含む」という前提で読み進めて欲しいのです。

 

そのような前提で読むと、この本が「人間らしく生きるための方法」を提示していることが、より伝わりやすいでしょう。

ここでの「生活技術」は、おおきく「考える技術」「愛する技術」「働く技術」「人を指揮する技術」「年を取る技術」にわけられています。
各技術に対して、それぞれの紹介と、その技術の「人間らしい」使い方が提示されています。
各技術におおいて著者の云わんとするところが完結されていますので、それぞれの「技術」から「人間らしく生きるための方法」が得られることでしょう。

比較的硬い文章で書かれていますので、まずは興味のある「技術」から読み進めてみるのといいかもしれません。
「働く技術」のなかに「読書の技術」という細分があったので、私は、まずここから読んでみることにしました。

「あ~、なるほど!」「それはいえるよね!!」「そいうことがあってもいいのか!!」など、再確認と新しい発見がたくさんあり、興味深い1冊となりました。

 

この本には、現代でも通用する「技術」がたくさん記さています。いやむしろ、戦争直前の不安な時期にむけて発表された、このような知性たち。

それを今、理性と我欲のバランスが不安定な世界にいきる私たちが読むことに、意味があるのだと思います。

「なにが人間らしい生活なのか?」を言語化するヒントを得るには、とてもいい本です。

 

興味の湧くところからで構いません。ぜひ本書を手に取ってみてください。
それほど分厚いものではありませんし、1項ずつならすぐに読み終えることでしょう。

あなたの「ライフスタイル」の提案のなかに、本質を貫く新たな彩を添えてください。

 

 

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